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書評

【書評】人間使い捨て国家 明石順平

今日はマーケットも休みなので、最近読んだ中で印象が残った本を紹介させて下さい。

角川書店から出版された人間使い捨て国家です。タイトルを見るだけでとても気持ちが萎えますが、現状の我が国の問題点が分かりやすく書かれています。

著者はブラック企業問題に専門的に取り組んている弁護士の方です。

まえがきにあるように、安くて便利は低賃金・長時間労働で支えられているという言葉は正にその通りで、我々が当たり前のように受けている日本のおもてなしは、それらの犠牲で成り立っていると言っても過言ではないと思います。

第1章では、日本人の労働時間が他国に比較していかに長いかが書かれており、その労働時間の長さの弊害が人間の体にどのような悪影響を及ぼすかを説明しています。過労死は英語の辞書にもKAROSHIと載っているほど、この異常さは世界でも認知されています。

著者は、警視庁が発表している自殺の原因の中で動機が特定出来ない不詳の中にも、過労自死が相当数含まれていることを指摘しています。即ち、日本は仕事に殺されるリスクが諸外国に比較しても相当に高いということが理解できます。

さらに著者は、このような長時間労働がまかり通っている原因に残業代の不払いを指摘しています。残業代をまともに払う体制が出来ているのであれば、長時間労働は減少すると説明しており私も同意見です。

第2章では、なぜ上記のような長時間労働やサービス残業が当たり前のように日本社会で蔓延っている理由として、法律に抜け道が多く存在していることを指摘しています。

そもそも労働基準法36条のサブロク協定さえも締結していない企業は44%にものぼるそうです。

昨年の働き方改革によって、労働基準法が改正されましたが、それでも抜け道が多く存在すると説明しています。改正後もまだ残業時間の特例上限が、過労死ラインの80時間まで許容されており大きな変化は無いようです。

さらにそれらを違反した場合でも、企業が支払う罰則が30万円であることも本気でこの問題を改善する気は感じられません。

そしてこの章では裁量労働制や場外みなし、高度プロフェッショナル制度の問題も詳しく説明しており、サラリーマンの方は熟読する必要があると思います。

第3章では、固定残業代とはそもそも固定給に含まれるものを名前を変えて残業代に見せているだけだと指摘しています。

確かに基本給30万円+残業代と基本給20万+みなし残業代10万円では、残業代10万円の部分が基本給の一部を切り取っているだけだとしても労働者には分かりません。見かけの給料を大きく見せることが出来ると著者は指摘することも納得です。

このような複雑な給与体系を作ることによって、企業は大幅に残業代をカット出来るとも説明しています。

第4章では、コンビニのオーナーの悲惨さを説明しています。個人的にはこの章が一番衝撃を受けました。

まずは皆さんも一度は利用したことがある、セブンイレブンのオーナーの実態を書いており、一般的なケースより6~7倍の死亡率が高いと指摘しています。

さらにコンビニ本部の異常に高い利益率と特殊なコンビニ会計についても触れています。投資家目線から見ると、高い利益率である会社は投資先候補ですので複雑な心境です。

そしてコンビニオーナーは、ほとんど店の運営に対して裁量権は無いにもかかわらず自営業者となるので、労働基準法に守られることが無いジレンマについて説明しています。

契約したのはオーナ本人ですが、自己責任の一言で片づけられるのは納得がいかないと著者は指摘しています。

第5章では、外国人労働者の劣悪な扱いについて書いています。最近は都内のファーストフード店やコンビニの店員の多くは外国人です。そして我々が目にする外国人の1/4は、留学生か技能実習生だそうです。

そしてその留学生や技能実習生の大半は、日本語学校や就労先を仲介するブローカーに搾取される構造が説明されています。

外国人留学生や技能実習生は、ブローカーに甘い言葉で誘われ大きな借金を背負って来日するのですが、生活費や授業料を稼ぐために劣悪な環境で仕事させられることが多いようです。

そして、外国人技能実習生から搾取するブローカーや受け入れ先と結託して間接的に上前をピンハネする国内の管理団体に、官僚が天下りする構図が説明されています。

この章の最後に書かれているある風景という項目には、外国人留学生がコンビニのレジに立ち、サービス残業をして帰宅するサラリーマンが立ち寄り、手にした弁当は弁当製造工場で働く外国人留学生が作ったという描写があります。今の日本の縮図を描いているようで重い気持ちになりました。

第6章では、公務員も公営ブラック企業であることが指摘されています。公立の小学校の33%、中学校では57%の教諭が過労死ラインで勤務していることが説明されています。

公務員は、給特法という法律によって原則残業代や休日勤務手当は支給されないようです。その代わりに給料の4%にあたる教職調整額というものが存在するようですが、部活だったりモンスターペアレンツの対処の必要性を考えると、世の中に批判されるほど優遇されてはいないようです。

さらにルールを作る側と信じられている国家公務員の10%近くも、過労死ラインを超える月80時間超の残業をしているようです。

第7章では、自民党と財界の癒着について書かれています。自民党の支持層の経団連は、人件費を抑えて利益を上げたいので自民党に多く献金をして政治に影響力を与えます。そんな状況で、労働者寄りの法律が制定されるはずが無いと指摘しています。

さらに、資金だけでなく経済諮問会議などに人も出すので、人材派遣などの規制緩和など大企業に有利に法律が改正されていくことも説明しています。

この章の最後では、物価上昇分を考慮した実質賃金を見ると、アベノミクス開始前と比較して3.6%低くなっていると指摘しています。

著者は、アベノミクスは円安にして物価を上昇させただけで、一般人にとっては何のメリットも無かったと書いています。

最後の第8章では、上記の問題点の著者が考える解決策を提示しています。大部分は私も同意見ですが、最低賃金を1,500円に上げるべきとの意見には反対です。最低賃金を上げることによってヨーロッパの多くの国々では、経験値が無い若年層の失業率が高くなることが証明されています。

やはりこの本を読んで、給与所得だけに自分の収入源を依存することは危険であり、配当所得など収入の源流を増やすことが重要であることを再認識しました。